前回の記事では、自分の作業だけではなく、
「この仕事は、どこから来て、どこへ行くのか?」
まで見るようになりました。
(※前回の記事はこちら→『自分の仕事だけ見ていても、仕事全体は速くならない。最高評価者は「仕事の流れ」を見ていた』)
仕事を一本につないでみると、それまで見えていなかった待ち時間や手戻りが見えるようになったのです。
そして、その中に一つだけ気になる場所がありました。
私が作った資料を、別の担当者が確認する。
↓
そのあと、さらに別の担当者へ渡す。
↓
そこで、よく似た箇所をもう一度確認する。
私は紙に書いた仕事の流れを見ながら思いました。
「これって、二回も確認する必要あるのか?」
今までなら、何の疑問も持たなかった仕事です。
- 前からそうしている。
- 周りもそうしている。
- だから自分もやる。
それだけでした。
でも、一度「仕事の流れ」が見えるようになると、その一工程だけが妙に気になりました。
「これ、何のためにやってるんだ?」
その疑問が始まりでした。
見えるようになったら、今度は消したくなった。
私はその確認工程を眺めました。
最初の担当者が確認する。
次の担当者も確認する。
「同じようなところを二回見てるよな……。」
これまで私は、仕事のやり方を少しずつ変えられるようになっていました。
原因が見えたら、
「次は何を一つ変える?」と考える。
それで実際に仕事が速くなった経験もあります。
だから今回も、考え方は単純でした。
「ムダなら、変えればいい。」
二回確認しているなら、一回にする。
そうすれば、その分だけ仕事は速くなる。
「ここ、なくせるんじゃないか?」
少し前までなら、与えられた手順をそのままこなしていた私が、仕事そのものへ疑問を持つようになった。
自分では、それも成長だと思っていました。
でも私はまだ、
「ムダに見える」ことと「必要がない」ことを、ほとんど同じ意味で考えていたのです。
「そこはねえ、前にミスがあったとこなんだよ」
私は、その仕事に関わっている人へ聞いてみました。
「この確認って、二回やってますよね。」
「そうだね。」
「ここ、一回にしても大丈夫なんですかね?」
すると、返ってきた答えは予想と違いました。
「あーそこはねえ、前にミスがあったから確認するようになったんだよ。」
「え?」
思わず聞き返しました。
以前、この工程を通った資料に間違いがあり、そのまま次へ進んでしまったことがあった。
それをきっかけに、確認を追加したということでした。
私は、もう一度紙を見ました。
さっきまで、
「同じことを二回やっているムダな場所」
にしか見えなかった工程です。
でも、そこには理由がありました。
ミスを防ぐため。
間違った状態で次へ渡さないため。
「知らなかった……。」
もし、
「ムダだから。」
という理由だけで勝手に飛ばしていたら。
確かに時間は短くなったかもしれません。
でも、以前起きた問題をもう一度起こしていた可能性もあります。
その瞬間、
「ムダに見える=いらない」ではない。
ということだけは分かりました。
ただ、話を聞いていると、もう一つ気になることがありました。
その確認方法が作られた頃と今では、仕事の進め方も少し変わっています。
以前は、それぞれが持っている資料を受け渡しながら確認していた。
今は、同じデータを共有しながら確認できる。
それなのに、
確認のやり方だけは、以前とほとんど変わっていませんでした。
私は紙の上の「確認」という文字を見ました。
「目的は必要なのかもしれない。」
でも――。
「今も、このやり方じゃないとダメなのか?」
今度は、別の疑問が残りました。
別の仕事で、最高評価者は「なくす話」をしていなかった。
数日後。
最高評価者が、私とは別の仕事について関係者と話していました。
何かの記録を残す作業について確認しているようでした。
「これって、何のために残してるんでしたっけ?」
相手が説明します。
「後から確認が必要になったときに、経緯が分かるようにするためです。」
「なるほど。じゃあ、残すこと自体が必要なんですね。」
そこまで聞いたところで、私は少し気になりました。
話が終わったあと、自分から聞いてみました。
「それ、なくすかどうか確認してたんですか?」
最高評価者は首を横に振りました。
「いや、まず何のためにやってるのか確認してました。」
「目的ですか?」
「そうですね。目的が分からないまま消すと、あとで困るかもしれないので。」
それだけでした。
私の確認工程について相談したわけではありません。
最高評価者も、私が何に悩んでいるのか知りません。
その人はただ、自分の仕事で必要なことを確認していただけです。
でも私は、
「何のためにやっているのか」
という言葉を、そのまま自分の席まで持ち帰りました。
「なくせるか?」ではなく、「何を守っている?」
机に戻り、もう一度あの確認工程を見ました。
最初に私が考えたのは、
「ここをなくせるか?」
でした。
でも、最高評価者が別の仕事でしていたように、問いを変えてみました。
「そもそも、この確認は何のためにある?」
答えは、もう聞いています。
ミスを防ぐため。
間違った資料を、そのまま次へ流さないため。
私は紙の「確認」という文字をペン先で囲みました。
その横に、小さく書きます。
「目的:ミスを防ぐ」
しばらく、その二つの文字を見比べました。
- 確認。
- ミスを防ぐ。
「あれ、……同じじゃないな。」
そこで初めて気づきました。
必要なのは、
「二回確認すること」
なのだろうか。
それとも、
「ミスを防ぐこと」
なのだろうか。
もし「二回確認すること」自体に、今も必要な理由があるなら、その工程を残す必要があります。
でも、本当に守りたいものが、
「ミスを防ぐこと」
なら――。
その目的を守れる方法は、今のやり方だけとは限りません。
私はそこで初めて、
作業と目的を分けて考えました。
昔から続いている作業にも、始まった理由がある。
でも、
その「理由を守ること」と、「昔のやり方をそのまま守り続けること」というのは、
同じではありませんでした。
「残す」か、「なくす」の二つしかないと思っていた。
私は関係者に、もう少し詳しく聞いてみました。
- どんなミスが起きたのか。
- 何を間違えたら困るのか。
- 最初の確認では何を見ているのか。
- 次の確認では何を見ているのか。
一つずつ聞いていきます。
話しているうちに、二人が確認している内容には、かなり重なっている部分があることが分かりました。
でも、だからといって、
「じゃあ、片方をなくしましょう。」
とは、もう思いませんでした。
目的は、
「ミスを防ぐこと」
ならば、その目的を弱くしてしまったら意味がありません。
「確認そのものをなくすんじゃなくて……。」
私は紙を見ながら考えました。
「何を確認する必要があるのかを、もう少しはっきりさせられませんか?」
関係する人たちと、
それぞれの確認ポイントを整理しながら、
「ミスを防ぐという目的を損なわずに、今より重複を減らせる方法がないか」
考えてみることにしました。
私はそこで気づきました。
これまで頭の中には、
「残す」か「なくす」。
その二つしかありませんでした。
でも、もう一つありました。
目的は残して、やり方を変える。
私は紙の端に、その言葉を書きました。
そして、
「目的:ミスを防ぐ」
と書いた部分を、もう一度ペン先でなぞりました。
「守るのは、この作業じゃないんだ。」
守るべきなのは、
この作業が存在している理由でした。
「昔から」も、「ムダに見える」も、答えではなかった。
それまでの私は、昔から続いている仕事を見ると、
「必要だから残っているんだろう。」
と思っていました。
でも、
「昔からやっている。」
それだけでは、今も続ける理由にはなりません。
一方で、
「自分にはムダに見える。」
それだけでも、やめる理由にはなりません。
どちらも、まだ答えではなかったのです。
その間に、一つ確認しなければならないことがありました。
「これ、何のためにやっている?」
目的が今も必要なら、守る。
目的は必要でも、方法が今の仕事に合っていないなら、目的を損なわない方法がないか考える。
もし調べても、守るべき目的そのものがもう存在しないのなら、そのとき初めて、なくすことを検討する。
私はようやく、
仕事の形ではなく、その奥にある意味まで遡って考える
ようになり始めました。
今日、一つだけ「これ、何のため?」と聞いてみる。
毎日やっている仕事の中に、
「なんでこれやってるんだろう?」
と思いながら続けているものはないでしょうか。
一つだけ選んでみてください。
そして、すぐにやめるのではなく、一度だけ問いかけてみます。
「これ、何のためにやっている?」
自分で答えられるなら、それで十分です。
分からなければ、その仕事を知っている人へ聞いてみる。
今回はまだ、
なくさなくていい。
改善案も出さなくていい。
まず、
「その仕事が何を守るために存在しているのか。」
そこまで戻ってみる。
私も最初は、
「二回確認しているからムダ。」
としか見えていませんでした。
でも目的まで遡ったことで、
なくしてはいけないものと、変えてもいいものが、少しずつ別々に見えるようになりました。
【次回予告:やり方は決めた。それなのに、人によって結果が違った】
関係者と確認しながら、
ミスを防ぐという目的を残したまま、確認するポイントを少しずつ整理していきました。
「これなら、前より分かりやすいな。」
私は新しいやり方を理解していました。
一緒に考えた人も理解しています。
ところが、別の日。
その仕事を別の人が担当しました。
しばらくすると、その人の手が止まっています。
「ここって、どこまで確認するんでしたっけ?」
私は説明しました。
「ここを見て、こういう場合はこっちも確認します。」
「ああ、なるほど。」
仕事は再び動き始めました。
数日後。
今度は別の人が同じ仕事を担当します。
すると――。
前の人とは違うところで判断に迷っていました。
同じ仕事。
同じ目的。
同じやり方のはずなのに、
やる人によって、進み方が少しずつ違う。
私はその様子を見ながら、あることに気づきました。
「これ……俺がその都度説明してるから、同じように見えてるだけじゃないか?」
誰かに仕事をお願いすることはできる。
必要な情報を渡して、動いてもらうこともできる。
でも今回、気になったのはそこではありませんでした。
私が横にいなくても、誰が担当しても同じ判断ができるのか。
そこには、まだ大きな差がありました。
「人が変わるたびに、やり方まで変わる。」
次に私が向き合うことになるのは、
仕事を誰かへ渡す方法ではなく、
同じ仕事を、誰がやっても同じように再現できる状態にすること
でした。
第23話へ続きます。


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