前回の記事では、最高評価を取り続ける人たちは、問題が起きてから相談するのではなく、仕事を始める前に方向性を確認していることを知りました。
(※前回の記事はこちら→『相談が上手い人ほど評価される本当の理由。最高評価者は問題が起きる前に相談していた』)
私はそれから、新しい仕事を任されたときには、
「私はこの方向で進めようと思っていますが、認識は合っていますか?」
と、最初に確認するようになりました。
仕事の途中で方向がずれ、大きくやり直すことは少しずつ減っていきました。
以前より方向性が明確になり、迷わず仕事を進められる。
そんな手応えも感じていました。
正直、
「よし。また最高評価者へ一歩近づけた」
そう思っていたのです。
しかし……。
私は上司に相談した後も、すべての仕事を自分一人で抱え込んでいました。
「自分でやった方が早い」そう信じたまま、残り二十分になっていた
パソコンの画面には、作業中の資料がいくつも並んでいました。
時計ちらっと目を向けると、時刻は16時10分。
勤務の終了時間まで、あと二十分しかありません。
しかし、画面にはまだ終わっていない作業が残っていました。
- 数字の確認。
- 過去資料との照合。
- 関係部署へ送る文章の作成。
一つ終わらせても、まだ次の作業が残っています。
「今日中に絶対終わらせたい」
そう思い、キーボードを打つ指に力が入りました。
本当は、数字の確認なら詳しい同僚へ聞いた方が早い。
過去の経緯も、担当していた人へ確認した方が正確です。
それでも私は、声をかけませんでした。
「自分の仕事なのに、人へ頼むなんて申し訳ない」
「説明する時間がもったいないから、自分でやった方が早い」
そう思っていたからです。
しかし、焦るほど数字を見間違え、入力をやり直します。
自然とキーボードを叩く力が強くなり、額にはじんわりと汗がにじみ、鼓動も速くなっていました。
すると、机の上でスマートフォンが小さく震えました。
気付けば、16時30分。
私は画面を見つめたまま、途方に暮れていました。
同じように期限が迫っているのに、なぜか最高評価者は焦っていなかった。
そのとき、少し離れた席から声が聞こえてきました。
最高評価を取り続ける同僚でした。
その人も、私と同じように期限の迫った仕事を抱えていました。
しかし、机の前で一人焦っている様子は微塵もありません。
資料を何枚かに分け、それぞれに付箋を貼っています。
そして、近くの同僚へ声をかけました。
「○○さん、この数字だけ確認をお願いできますか?」
「確認する場所は、この三か所です。元の資料も一緒に置いてあります」
声をかけられた同僚は資料に目を通し、すぐに答えました。
「これならすぐ確認できます。やりますよ」
次に、別の人へ声をかけます。
「△△さん、過去の経緯について詳しいですよね?」
「説明文は私が作るので、認識が間違っていないかだけ見てもらえますか。今日中に確認してもらえると助かります」
「分かりました。いいですよ」
周囲の人たちは、嫌そうな顔をしていませんでした。
むしろ、何をすればよいのかが明確で、迷わず動き始めています。
私はその光景を見ながら思いました。
「どうして、あんなに自然に人へ頼めるんだろう」
最高評価者と同じように頼んだはずなのに、相手の表情は曇った。
「これなら自分にもできるかもしれない」
そう思った私は、意を決して近くの同僚へ声をかけました。
「ちょっと、この資料を手伝ってもらえない?」
同僚は私の画面を見ながら聞きました。
「どこを確認すればいいですか?」
「えっと……。数字の確認と、過去資料も見てもらって……」
「どの数字ですか?」
「あ、ちょっと待って」
私は慌ててファイルを開き直しました。
必要な資料が、いくつものフォルダに分かれています。
どこまでお願いし、どこから自分がやるのかも決めていませんでした。
同僚は、困ったような表情で画面を見ています。
その瞬間、私は気付きました。
単に仕事をお願いするだけでは、相手は動けない。
- 何をすればよいのか。
- なぜ必要なのか。
- いつまでなのか。
- 必要な情報はどこにあるのか。
それが分からなければ、頼まれた相手も、どこから手を付ければよいのか分かりません。
相手を困らせ、頼んだ自分まで気まずくなってしまいます。
私は、人へお願いすることが、周囲を巻き込むことだと思っていました。
しかし、それだけではなかったのです。
最高評価者は、人が動きやすい状態をつくっていた
私は、最高評価者の机をもう一度見ました。
お願いする仕事は、すでに小さく分けられていました。
必要な資料も整理されています。
確認する場所には付箋が貼られています。
目的も期限も、短く分かりやすく伝えていました。
だから、頼まれた相手は迷いません。
何をすればよいのかが、すぐに分かるからです。
最高評価者は、仕事を押し付けていたのではありません。
相手の負担が少なくなるように準備し、動きやすい状態をつくってからお願いしていたのです。
その瞬間、ようやく分かりました。
私は、
「自分一人で、どれだけできるか」
だけを考えていました。
しかし、最高評価者は、
「どうすれば周囲の力を借りて、もっと大きな成果を出せるか」
を考えていたのです。
成果は、自分の能力だけで決まるのではありません。
周囲の人が力を出しやすい状態をつくれる人ほど、成果は大きくなっていくのです。
今日から試してください。お願いする前に4つだけ準備します
誰かへ仕事をお願いするときは、声をかける前に、次の四つを整理してみてください。
- 目的
- お願いする範囲
- 期限
- 必要な情報
例えば、
「明日の会議で使う資料を完成させたいので、この3か所の数字だけ確認してもらえますか。元の資料はここにあります。今日中に確認してもらえると助かります」
これだけで、相手は動きやすくなります。
最初から、完璧に準備する必要はありません。
まずは、
「どこまでお願いするのか」
だけでも明確にしてみてください。
お願いする内容を具体的にしてから、相手へ声をかけるのです。
私も、仕事を小さく分け、必要な資料をそろえてからお願いするようになりました。
すると以前より、
「それならできますよ」
と言ってもらえることが増えました。
一人で抱えていた仕事が動き始め、自分一人では間に合わなかった仕事も、時間内に終えられるようになったのです。
次回予告:仕事は早く終わった。しかし、空いた時間を私はまた仕事で埋めようとしていた……
その日、私は時間どおりに会社を出ました。
玄関のドアを開けると、子どもたちの足音が近づいてきます。
「パパ、おかえり」
その声を聞いた瞬間、体中に張りつめていたものが、ゆっくりとほどけていきました。
全部一人でやらなくても、成果は出せる。
むしろ周囲の力を借りた方が、仕事は早く進み、家族との時間も守れる。
私はようやく、そのことに気付き始めました。
しかし、仕事が早く終わるようになると、今度は新しい問題が生まれました。
予定より早く仕事が終わると、私は空いた時間が落ち着きませんでした。
「時間があるなら、もっと仕事を入れた方がいい。その方が、たくさんの仕事ができる」
そう考え、せっかく生まれた余白を、また仕事で埋めようとしていたのです。
新しい時間が生まれた。
でも、その時間を何に使えば、成果をさらに伸ばすことができるだろう。
次回は、
『仕事が早い人ほど予定を詰め込まない。最高評価者は「余白」を先に確保していた』
をお届けします。


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